誰もが長生きする社会。シニアとこれからシニアになる人たちと「長生きするのも悪くない」と思える仕組みをつくっていきます。
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 “シニアの入り口世代”と考える。異なる世代で構築できる未来 <後編>

小林さんは、民間シンクタンクの研究員として、個人や環境、経済など、様々な視点から地域をウォッチしてきました。プライベートでは、子育て支援を行うNPO団体の運営に携わっています。自身がシニアの入口に差し掛かった現在、次の世代に何が残せるのか?今回は、「多世代で構築できる未来」をテーマに、ポスト・コロナ社会での新しい文化や環境の構築において、多世代で何ができるのかについて語り合いました。

 
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小林貴博(こばやし・たかひろ)

1959年生まれ「シニアの入り口世代」
シニアの入り口に立った自分たちの世代は“くびれ世代(人口ピラミッドのいちばんくびれたところ)”でもある、さらに「くびれだけでなく、若干くたびれてもいます」と言う小林さん。
一般社団法人日本リサーチ総合研究所の調査研究部長を経て、現在は『BABA lab』客員研究員。市区町村の経済調査や地域資源活用、民間企業の商品開発等、社会調査及びマーケティングリサーチを得意とする。プライベートでは、「NPO法人わこう子育てネットワーク」の理事として、子育て世代を支える活動に長年携わっている。

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桑原静(くわはら・しずか)

1974年生まれ「団塊ジュニア世代」
『BABA lab』代表。WEBコミュニティの企画者を経て、リアルなコミュニティをサポートする世界に飛び込む。2011年『BABA lab』事業をスタート。シニアの働く場・学ぶ場・遊ぶ場の仕組みづくりに取り組む。「長生きするのも悪くない」と思える仕組みを多世代で考えることがミッション。https://www.baba-lab.net/about

 

----------- 子育て世代、若い世代とシニアの関わり方は変わるか?

>桑原
小林さんが理事として長年携わっている「NPO法人わこう子育てネットワーク」代表の森田圭子さんと先日お話ししましたが、今回のコロナ騒動の中で、ママたちの疲弊がすごいと。在宅勤務中にオンライン会議する間だけ高額な料金を払ってベビーシッターをお願いしているケースもあるとか。ただ、たくましいママも多くて、流行りの「zoom飲み会」でストレスを発散しているそうです。

>小林
コロナ騒動でママたちの疲弊はギリギリの状態になっています。準備期間もない急な学校休校のせいで、ストレスがかなり高い状態だったところに、4月からの緊急事態宣言と自粛要請で、ダブルパンチです。外出自粛の最初の頃は「家にいてすることがないから、コロナ・ベビーがたくさん生まれるのでは」なんていうデリカシーのない人もいましたが、今は「コロナ離婚」の方がしっくりくる状況なんじゃないでしょうか。

>桑原
「ポスト・コロナ社会」では、オンライン学習導入が進んで、子供たちも自宅が活動拠点になり、実際に誰かと顔を合わせる機会というのが、ますます減っていく可能性がありますよね。親のストレスも増えそうですけど…。先ほど話が出た世代を超えて実践する「おもしろいこと」「ユニークなこと」として、シニアが子育て世代にできることって、どのようなことが想像できますか?

>小林
コロナ以降、人と人とのコミュニケーションの形や、子どもたちの学びの形がどんなふうに変わってしまうのか(学校というシステムも変化せざるを得ない)、それとも変わらないのか、興味深いテーマですよね。

シニア世代の人たちが、子ども世代(子育て世代)や孫世代になにをしてあげられるのか、なにを受け渡せるか。昔に比べると、難しい問題になっているように思います。私が子どもの頃は、今のような情報社会ではなかったので、高齢者の知恵や経験は、子ども世代、孫世代にとってはそれなりにリスペクトの対象だったのですが、今は、じいちゃんばあちゃんに教わるようなことは、ほとんどがネット上の動画で学べてしまったりしますからね。

若い世代の自己肯定感を応援するためには、なにかを教えるということよりも(もちろん、若者がシニアからなにかを学びたい、受け継ぎたいという意向があれば、それには応えるべきだと思いますが)、ただいっしょの時間をゆったり過ごして、若者たちの考えや悩みや不安をきちんと聞いてあげることから始めた方がいいんじゃないかと思います。私がリスペクトしているある市民活動家は、こうした若い世代への寄り添い方を “なにげない日常をともにする”という風に言っています。

>桑原
現在、シニアは「何かをしてもらうのを待つ」「声をかけられるのを待つ」存在でしかないと思っている(あるいは思われている)と感じているのですが、シニアと若い世代の両者が「関わりたい」と思えるきっかけがあるとよいのかもしれませんね。

>小林
シニアの話を聞く「傾聴ボランティア」みたいな活動がありますが、シニアへの傾聴(それも大切なことだと思いますが)よりも、シニアが孫世代の話をじっくり傾聴し、その行動を見守ってあげることが大切なんじゃないかと思います。そうやって信頼関係を築いたうえでこそ、若い世代がシニアの知恵や経験を受け取ってくれるのではないでしょうか。

 

----------- シニア世代がいま、次世代のためにできること

>桑原
まずは、シニア世代と若い世代の接点をつくるということが必要ですよね。BABA labの使命である、未来のために「長生きしても悪くない」と思える仕組みを社会に残す、ということに関して、シニアができること、それに続く世代ができることなど、希望やヒントになることはないでしょうか?

>小林
社会制度構築という面では、シニアは、私利私欲に走る「ジコチューシニア」にならないよう気をつけながら、次の世代が希望を持てるような制度づくりのために、政治を動かす原動力として動く必要があると思います。若者が投票に行かないことを嘆く暇があったら、自分たちシニアが若者の生きやすい世の中をつくるために投票すればいいじゃないですか。どうせどんなに健康なシニアでも、若者より長く生きるわけじゃないんだし(笑)。
一方、シニア自身の生活においては、これまでの人生の中で築いてきた有形無形の「資産」を、若者を含むより多くの人たちのために生かす努力をすべきだと思います。自分の子どもだけ、自分の孫だけがよければいいという考えも、立派な「ジコチューシニア」だと思います。

自分の子どもや孫が生きやすい社会であってほしいと望むなら、血縁者にお金や不動産を残すだけでは、実は充分ではないんです。むしろ、求められているのは、そうした資産や知恵やネットワークを活用して、次の世代を幅広く応援することなのではないか思っています。とりあえず、いろんな世代が集まり、助け合える「場」をシニア自身がつくってみることから始めるのはいかがでしょうか。幸い、シニア層は持ち家の方が多いと思いますし、ビルや貸家を持っている方もいるでしょう。その住まいをたとえば「住み開き」(※注1)したり、低廉な家賃で貸し出したりすることで、近隣の方人たちや趣味趣向を同じくする人たちの居場所づくりになります。そこから、自ずと次の世代が希望を持てるために必要なことが浮かび上がってくると思います。

※注1 「住み開き」とは、自宅や空き家、空き部屋、自身の事務所などを趣味の教室やカフェ、ギャラリーなどのコミュニケーションの場として開放すること。「週1日だけ」など、プライベートな部分を維持しながら他者とのつながりを持てる場として多世代から注目されている。


シニアは層としてのボリュームも大きいし、次世代のためにできることのポテンシャルも膨大に備えてきていることを、改めて意識していただきたいと思います。私も微力ながらお手伝いできることがあれば、なんでもやりますので。


>桑原
この対談の冒頭(前編)で「自由」について話しましたが、自由って、一人称では語れないものなんだと思いました。他人との関係性がないところでは、自分が自由だろうと不自由だろうと意味はない。「自由」って、家庭や職場、社会のなかで自身が責任をもって物ごとを選択して生きることだと私は思います。その責任の取り方として、小林さんが言われた、次の世代にバトンを渡すこと、バトンを“渡す”だけではなく“できるだけサポートをしていく”という意識が重要ですし、求められていることなのかもしれません。そして、私のような40代の中間世代のミッションとしては、シニアと若い世代をつなげるにはどうするのか? どうコミュニケーションをうながすのか? を模索することが求められているのではないかと感じています。“シニアの入り口”に立った小林さんにも、ぜひ、シニア世代、私のような中間世代、若い世代ができることを一緒に考え、お手伝いいただけたら嬉しいです。今後ともよろしくお願いします!