誰もが長生きする社会。シニアとこれからシニアになる人たちと「長生きするのも悪くない」と思える仕組みをつくっていきます。
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 健康相談を通じて、人と人がつながる地域へ

みんなの保健室 陽だまり(埼玉県草加市)

 

全国で広がりを見せている「みんなの保健室」をご存知ですか?

学校にある保健室の地域版で、医療や介護の相談を無料で受けられたり、健康講座や趣味の講座などが開かれたり、シニア層を中心に地域住人が交流できる場所です。今では全国各地で地域の特色を活かした「みんなの保健室」が開かれています。

埼玉県草加市では、『みんなの保健室 陽だまり』が市内4か所で「みんなの保健室」を開いています。今回は開催場所のひとつ「さかえーる」に取材に伺いました。

 
取材当日は、講師がスマートフォンやパソコン、インターネットの相談にのる「何でも応える放課後クラブ」が開催。操作やアプリのダウンロードの仕方などひとり一人のペースにあわせて丁寧に教えてもらえる

取材当日は、講師がスマートフォンやパソコン、インターネットの相談にのる「何でも応える放課後クラブ」が開催。操作やアプリのダウンロードの仕方などひとり一人のペースにあわせて丁寧に教えてもらえる

 気軽に来られる健康相談の場を

入口では季節の花々がお出迎え。気持ちよく手入れされた桃や松などの木々が植えられた広い庭を持つ一軒屋には、年代も様々な地域の人たちが訪れています。ここは築30年以上経つ空き家でしたが「地域交流の場として使ってほしい」と一軒家の住人から草加市に提供されました。現在「さかえーる」という名称で地域に開かれた場所になっています。「さかえーる」では、毎週木曜日に『みんなの保健室 陽だまり』主催の講座が開催されています。

『みんなの保健室 陽だまり』(以下『陽だまり』)代表の服部満生子さんは、長年看護師として病院に勤務。都内の病院に勤務していた時に「地域医療」に出会いました。病気や健康についての情報提供や、相談に応じる病院内の健康生活支援室に携わり、「地域医療の面白さに、どっぷりハマりましたね」

ふと自分の住む近所を見渡してみると、毎日、防災無線から迷い人の放送が流れ、朝デイサービスの車が高齢者を迎えに来た後、昼間近所に人がいなくなることに気づきました。「迷い人も介護も地域コミュニティの力があれば、解決できることが増えるのではないか?」と思い始めました。

 
「今が人生で一番面白い!」と笑顔で語る『陽だまり』代表の服部満生子さん。『陽だまり』の活動が評価され、シニア世代の社会貢献を進める団体が選出される「第6回プラチナ・ギルド アワード」を受賞

「今が人生で一番面白い!」と笑顔で語る『陽だまり』代表の服部満生子さん。『陽だまり』の活動が評価され、シニア世代の社会貢献を進める団体が選出される「第6回プラチナ・ギルド アワード」を受賞

健康生活支援室で相談を受ける中で「病院」や「相談すること」に対して苦手意識を持つ人にも多く出会いました。団塊の世代が75歳以上となる2025年を目安に、国では介護度があがっても住み慣れた地域で最後まで暮らせるよう、住まい・医療・予防・生活支援が一体的に提供される「地域包括ケアシステム」を進めています。しかし服部さんは、国の政策と実際の地域状況とのギャップを強く感じていました。

「病院に行く手前でもっと気軽に誰もが健康相談ができる場を作りたい」と自分の暮らしがある草加で「みんなの保健室」を始めようと決意しました。

病院を退職後、論文を書く機会に恵まれ「草加市にみんなの保健室を作る」ことをテーマに執筆。論文の構想を胸に、草加市立病院時代の看護師や助産師などの元同僚6名に声をかけました。元同僚たちも服部さんの案に賛同。第1回目の開催場所を決める段になり、その時の打ち合わせ場所が『喫茶ツネ』でした。話を聞いていたお店のママが「うちを使ってもいいわよ」と声をかけてくれ、開催会場もすぐに決まりました。

しかし、『陽だまり』の第一回目の開催準備を進めていた時、服部さんは乳がんに罹患。「開催初日には現場に立ちたい」と服部さんは手術、治療を乗り越えて自宅に戻りました。すると近所の人が服部さんのことを気にかけてご飯を作って持ってきてくれたり、毎日「元気かい?」と声をかけてくれたのです。「初めて患者の立場となって、近所に住む方たちの温かい行為に胸を撃たれ、ますます『陽だまり』の必要性を感じました」(服部さん)

 2015年8月、喫茶ツネで開催された初めての『陽だまり』は満員御礼、店いっぱいの40人が訪れました。その後も毎回満席となったため、今はお店を貸し切りにして開催しています。

多彩な講座が目白押し

活動当初は1か所での開催だった『陽だまり』は、現在は草加市内4か所で開催しています(さかえーる、喫茶ツネ、草加市立市民活動センター、ウエルシア稲荷五丁目店)。2018年は延べ2000人が訪れ、どの会場も毎回盛況です。地域は草加市内だけでなく近隣の川口市や越谷市などから来る方もいます。圧倒的に女性の参加が多く、年齢層は10代から80代。メインは70代、80代ですが、年齢制限はなく、子どもも大人も誰でも来られる場所です。

 陽だまりでは、幅広いジャンルの講座が開催されています。

季節の健康情報や介護関係の情報(誤嚥性肺炎の予防、フレイルなど)を紹介する会をはじめ、参加者同士で生活や介護、健康面でのお困りごとを話し合う会、絵本や読み聞かせ、朗読会、脳トレ、笑いヨガ、手話落語、ハンドマッサージ、歌声喫茶、インドネシア民族楽器「アンクルン」の演奏会、映画上映会、ファッションショー、かっぽれやよさこいを教わる講座、地域の農家を招いて野菜講座&販売など、気になる講座が目白押しです。

 「『陽だまり』ならではの講座と言えば、精神疾患や認知症、がん患者などの当事者が語る会ですね。ここに来ると“人”と“人”がつながっていく化学反応がたくさん起こっています。参加者が自分で講座を開くこともありますよ」(田口さん)

 講座は全て、月1回開かれる運営会議で、講座企画委員や運営に関わるメンバーが講座企画を発表。そこからみんなで話し合って決めていきます。スタッフ自身がやりたいことなども大いに反映されています。

 
「『陽だまり』は、自分も参加したい講座がたくさんあって本当に楽しいですよ」と事務局の田口さん(写真左)。元草加市役所職員で川口市から通っている

「『陽だまり』は、自分も参加したい講座がたくさんあって本当に楽しいですよ」と事務局の田口さん(写真左)。元草加市役所職員で川口市から通っている

イラストがふんだんに使われ、パッと見ただけですぐにどんな講座か分かる『陽だまり』のチラシ。

チラシは、『陽だまり』の立ち上げメンバーの一人、広報部の相島さんが作成しています。

相島さんは、助産師として出産の現場に携わりながら、市内の小中学校に性教育普及に奔走。定年後は子育て相談に従事していました。

『陽だまり』に関わり3年が過ぎた頃、年齢を重ねて体力、気力ともに落ちてきたことも感じ、「活動を辞めよう」と思ったこともありました。

「『陽だまりを辞めたら私に何が残る?』と考えたら、私は『陽だまり』が、自分の居場所なんだと気づいたんですよ。私にはここでやることがある。そして支えてくれる仲間もいる。こんないい場所ありませんね」(相島さん)

 
「読み手に届くチラシを作る」、「同じチラシは作らない」がモットー。講座取材時には、スマートフォンでの撮影を積極的に行う(写真中央)

「読み手に届くチラシを作る」、「同じチラシは作らない」がモットー。講座取材時には、スマートフォンでの撮影を積極的に行う(写真中央)

適材適所で活動 誰でもウェルカムな場所

 
「暇の過ごし方がうまいですよ!」とスタッフから声をかけられていた講座参加者。「テレビに話しかけても返事はないしね。ここに来たらいろんなことが話せるから毎回楽しいですよ」

「暇の過ごし方がうまいですよ!」とスタッフから声をかけられていた講座参加者。「テレビに話しかけても返事はないしね。ここに来たらいろんなことが話せるから毎回楽しいですよ」

全員が看護職というメンバーから始まった『陽だまり』は、今は、薬剤師、検査技師、脳トレ講師、介護士、「さかえーる」でつながった団体の方など、看護職以外の人もメンバーになっています。会の趣旨に賛同する会員は、総勢46名となりました。

「本人の得意なことを活かせる『適材適所』で活動することで、『陽だまり』は続けられたと思います。メンバーは全員無償ボランティアです。会社組織でもなく、無償で活動することのやりがいやモチベーションをどう保っていくかは常に課題です。4年目を迎え、健康相談がやや手薄になっているのでは?とメンバーからの指摘もあって、これからは今よりも健康相談に力を入れていきたいと考えています」(服部さん)

『陽だまり』は、現在、任意団体ですが、会員も増え、年々活動が広がっていることから法人化も視野に入れています。将来的には事務局を設け、この活動の後継者となる若い人の参加をもっと増やしていきたいと考えています。そして事業が継続していくための資金を得る方法も検討中です。

「開催場所を増やして欲しいという声も届いています。誰でもウェルカムな“みんな”の保健室ですからね。もっと、もっと多世代交流の場になって欲しいですね」(服部さん)


会データ

活動開始年
2015年8月

会員数 46名(内13名が役員・30代から70代)

活動場所
・「さかえーる」(草加市栄町1-1-14/一軒家)
・草加市立市民活動センター(草加市谷塚町752)
・ウェルシア稲荷5丁目店(草加市稲荷5-7-20/草加市稲荷町4丁目バス停すぐ)
・喫茶ツネ(草加市 金明町 375-30/東武スカイツリーライン新田駅東口徒歩2分)

 web
みんなの保健室「陽だまり in 草加」Facebook

https://hidamari.localinfo.jp/


執筆:渚いろは/写真:原光平