自宅を開放した、心に寄り添う居場所づくり
「きままなスイーツカフェ」&「ケアラーズカフェKIMAMA」(東京都世田谷区桜丘)
日本での65歳以上の高齢者は3500万人を突破、総人口に占める割合が27%を超えました。介護を必要とする人は増加の一途をたどり、介護に関わる人たちの負担も深刻化しています。その中、介護者同士の語らう場として「ケアラーズカフェ」が生まれました。
東京都世田谷区で、13年前から個人の自宅を開放して運営されている、多世代交流の場「きままなスイーツカフェ」と介護者の語らいの場「ケアラーズカフェKIMAMA」を取材してきました。
自宅を開放してカフェを開く
毎週火曜日「きままなスイーツカフェ」を、毎月第3木曜日に「ケアラーズカフェKIMAMA」を開いている岩瀬はるみさんのご自宅は、小田急線千歳船橋駅から5分ほど歩いた東京都世田谷区の住宅街にあります。カフェのオープン日には一軒家の入り口に「今日のおすすめ」の黒板がかかります。
どちらのカフェとも、主なお客様は近隣に住む女性。「きままなスイーツカフェ」には、幼稚園に子どもを送った後や幼稚園帰りに立ち寄る子連れのママ達や近所の方、岩瀬さんの友人など、幅広い年齢層の方が訪れています。近所でイングリッシュガーデン風の庭を持つ友人が届けてくれる生花がテーブルに飾られ、来る人の気持ちを和らげます。岩瀬さんお手製の季節にあわせたケーキとドリンクのセットは750円。ドリンクは、珈琲、紅茶、ハーブティーなどから選べます。ケーキは毎回種類を変え、来る人を楽しませています。
岩瀬さんは、大学卒業後、外資系の化粧品会社に勤務、退職し、二人のお子さんを出産。PTA活動や地域活動を積極的に行う専業主婦でした。独学でケーキ作りを学び、家族や友達に振舞っていましたが、ある時「ケーキ教室を開こう」と40代で自宅そばにある桜丘区民センターでケーキ教室をはじめました。それから10年ケーキ教室を開いた後に、「きままなスイーツカフェ」と「ケアラーズカフェKIMAMA」を自宅で始めました。
(※詳しくは新・生き方辞典vol.2をご覧ください)。
自宅でカフェを開くきっかけは、ケーキ教室の生徒さんの一言からでした。自宅で開催していたケーキ教室の後にみんなで過ごすお茶タイムのとき。岩瀬さんの自宅より坂の上にある自宅から来る生徒さんから「千歳船橋の駅に行く坂の途中ある先生のご自宅が、峠の茶屋になるといいね」と話しました。それまでも生徒さんたちは、レッスン後のお茶タイムをとても楽しみにしていることは知っていました。それを聞いて「生徒さんの希望があるなら自宅をお茶と自家製ケーキを振舞うサロンを開こう」と岩瀬さんはその思いをすぐに叶え「きままなスイーツカフェ」を始めました。
カフェを始める時に揃えたものは2台のオーブンとテーブルクロスのみ。食器などは家にあるものを使いました。
自宅を開放することということは、不特定多数の人が訪問することになります。自宅カフェを開くにあたって、岩瀬さんは「子どもが学校、夫が仕事の平日昼間にカフェを開く。家族には迷惑をかけない」ことを条件に、家族に相談を持ち掛けました。それまでもケーキ教室で、生徒が定期的に自宅に通っていたこともあり、家族からはスムーズに了承をもらえました。知り合いからは「他人が自宅に来るのは怖くないの?」と言われたこともありましたが、お店と違って一般の家のドアを開けて入ることが第一関門になることや、カフェの雰囲気があわないと感じたお客様は、ほとんどが次は来ないこともあり、今まで大きなトラブルはなくカフェの運営を行っています。
介護経験者が気軽に話せる場にしたい「ケアラーズカフェKIMAMA」
「きままなスイーツカフェ」を始めてから10年、カフェでの話題が子育てから親の介護に変わってきました。自身も遠距離介護をしたことや、長年ケーキ教室の生徒さんで近距離介護の中、唯一の自分の時間が「きままなスイーツカフェ」だったいう話も受け、介護の話ができる場を作りたいと調べたところ、『ケアラーズカフェ』(ケアラー=介護者)という言葉に出会いました。『ケアラーズカフェ』にピンときた岩瀬さん。早速地域の民生委員や地域包括センターに相談して、早速自宅で「ケアラーズカフェKIMAMA」をはじめました。ケアラーズカフェ開店直前、『ケアラーズカフェ立ち上げ講座』に参加し、知識も備えていきました。ケアラーズカフェ立ち上げと同時に市民活動団体ZUTTO-KOKOを設立。傾聴ボランティアにも入ってもらい、4年目が過ぎ、ダブルケアラー(介護と育児)も参加するなど利用者の幅が広がってきています。
毎週火曜日の「きままなスイーツカフェ」と毎月第3木曜日の「ケアラーズカフェKIMAMA」は、岩瀬さんがひとりで切り盛りをしています。ケーキは前日から準備し、カフェ当日の朝に部屋を片付けて、お客様を待ちます。岩瀬さんは、はじめからお店を構えるという発想はなかったそうです。「一番は商売にしたくなかったから。家賃を払って収益を考えてカフェをやると、友達を無くすなと思ったんです。私は地域で築いた友達は無くしたくない。だから、収益はトントンで成り立つ場所代がかからない自宅で、一人でできるカフェを選びました。カフェが忙しくなると、お客として来ていた友人や常連さんが自然に手伝いに入ってくれます。PTA時代から40年の付き合いがある仲間には本当に感謝しています」
地域に根付いた自宅カフェは、歩いて通える、地元の人が集う場所。岩瀬さんの自宅カフェは、カフェを運営する側も訪れる側も互いに信頼できる関係性が醸し出す居心地の良い場所です。
介護施設で「オレンジカフェKIMAMA」をスタート
2015年から認知症の本人とご家族、認知症に関心のある地域の方、専門職が交流する「オレンジカフェKIMAMA」を介護施設内でスタート。お茶とケーキを楽しみながらお話をします。昨年はプロカメラマンとメイクアーティストを招き、施設利用者のファッションショーを開催。認知症の方は心も顔も華やぎ、みんなで楽しい時間過ごしました。
「オレンジカフェKIMAMA」は2017年12月から、岩瀬宅隣の桜丘区民センター1F談話室に場所を移す予定です。
自宅カフェを始めてから13年が経ち、カフェ開店当初に仕事をしていた岩瀬さんの旦那さんは定年になりました。定年後は、旦那さんが家にいる時間が増えるのでカフェを続けることができるか心配していましたが、岩瀬さんの名刺を作ったり、店の看板を作ったりと裏方でサポートをしてくれています。
自宅カフェを長く続けていて大きな悩みはないという岩瀬さん。時々、落ち込むことが起きた時は、信頼のおける友人に相談して、気持ちを持ちあげています。
「自分もいつか認知症になるかもしれない。その時に住んでいる場所が、温かく見守ってくれる、暮らしていける地域であって欲しい」と願う岩瀬さん。その一助に自宅カフェがなればと、今日もいろんなバックグラウンドを持つ信頼のおける友人たちに囲まれながら、カフェを切り盛りしています。
ある日のきままなスイーツカフェ タイムスケジュール
朝食後、あたふたと片付けを始める。
手早く掃除をし、要らないものを片付け(収納戸棚に放り込み)、家庭的な雰囲気のカフェ風に室内を整える。
カフェには華やかさを演出するための生花は欠かせない。春と秋には友人が庭の花々を手折って届けてくれる。花屋では見かけない珍しい花々が飾られることも。
お湯を沸かして、飲み物とケーキの準備。
10:50 お店の看板を出す。黒板に今日のおすすめケーキを書く
11:00 開店 ランチを提供していないため、 午前中はテイクアウトの人が中心
13:00 午後からは、一人暮らしの高齢者や子育てママ達、近隣の人達がやってくる
15:00 英会話やヨガのサークルの人達がグループ連れで来訪。初めましての方も
16:00 常連さんたちが来る。午後2~3時頃の一番混み合う時間を避けてとの配慮から、いつの間にか、この時間帯が「常連さんの時間」として定着。常連さんの心遣いに感謝。
17:00 閉店だが、ついつい時間オーバーしてしまうことも多々あり。
メニュー
きままなスイーツカフェ:参加費:750円(季節のケーキ+飲み物)650円(シフォンケーキ+飲み物)
ケアラーズカフェ KIMAMA:参加費650円(シフォンケーキ+飲み物)
店舗データ
〒156-0054 世田谷区桜丘 5-15-11(岩瀬さん宅)
TEL: 03-3439-1650
きままなスイーツカフェ:https://www.facebook.com/ki.mama.na.sweets.cafe/
ケアラーズカフェ KIMAMA: https://www.facebook.com/carerscafe.kimama/
開業年 きままなスイーツカフェ:2004年9月
ケアラーズカフェ KIMAMA:2013年9月
席数 15席
営業時間
きままなスイーツカフェ 毎週火曜日 11:00~17:00
ケアラーズカフェ KIMAMA 毎月第3木曜日 13:00~16:00
スタッフ数 なし(岩瀬さんのみ)忙しい時は常連さんが手伝ってくれる。
店の特徴 自宅リビング開放型カフェ。
きままなスイーツカフェは、地域の誰もが集える多世代交流カフェ
ケアラーズカフェ KIMAMAは、家族介護者支援のためのカフェ
執筆:渚いろは/写真:原光平